新入社員教育の目標は「コンプライアンス意識・価値観の形成」6割、担当者の3分の2は「理解・納得しているかの確認」が悩み
―― 私語を注意すると、「パワハラだ」と通報窓口に駆け込む社員も

HTCでは、2023年1月に、「こんぷろカスタム」の会員や「コンプライアンス通信」購読者ほか、4,000名以上のコンプライアンス担当者を対象にアンケートを実施しました。回答期日の2023年1月31日までに228名から回答が寄せられ、コンプライアンスというテーマの中で各社が新入社員とどう向き合っているかが見えてくる結果が得られました。コンプライアンス担当者たちは、今、何を目標として、どう取り組み、そしてどんなことで頭を悩ませているのでしょうか。

Q1 新入社員を対象としたコンプライアンス教育の主な目標は何ですか?

※各項目のカッコ内の数値は回答した担当者の実数。クリックで拡大(以下同)

主な目標は、「コンプライアンスの意識・価値観の形成」61.4%

Q1で新入社員を対象としたコンプライアンス教育の主な目標をたずねたところ、全体の61.4%にあたる140名が「コンプライアンスの意識・価値観の形成」と回答しました。新入社員が対象であることから、前提となる意識・価値観を身に付けさせることが第一と考える担当者が多かったようです。また、約4分の1にあたる担当者が、「コンプライアンスに関する知識の習得」と一歩進んだ段階を目指し、1割の担当者は、「コンプライアンス行動の実践」とさらにレベルの高い目標を掲げています。

Q2 新入社員対象のコンプライアンス教育における重点テーマは何ですか?

教育テーマは、半数が「コンプライアンスの概念や体制」、4分の1が「社会常識やマナー」を重視

新入社員のコンプライアンス教育での重点テーマをたずねたQ2では、半数の担当者が基本となる「コンプライアンスの概念や体制」を挙げました。自社のコンプライアンスへの姿勢を伝えることが教育面で重要だと考えていることが伺えます。
ほかに4分の1の担当者が「社会常識やマナーに関する教育・啓発」を挙げました。社会常識やマナーは、就職活動の前に自主的に身に付ける学生も多いはずですが、それでも企業では改めて教育する必要性を感じる面があるということでしょうか。
次に「一般社員が知っておくべき法令知識」(16.2%)、「個別(ハラスメント等)のリスク対策」(3.5%)と続いています。
その他の自由回答では、「何かおかしいと感じる力・感じたことを発信できる勇気・改善できる力」、「Bad News Firstの重要性(不確かな情報でも良いので、ネガティブ情報は報告する)」などが挙げられています。

Q3 新入社員にどのようなコンプライアンス教育を行っていますか?(複数可)

実施形態は「社内スタッフ、外部講師による新人研修」が半数、書籍・冊子やeラーニングなどの活用も多い

どのようなコンプライアンス教育を行っているかをたずねたQ3では、半数の担当者が「社内スタッフ、外部講師による新人研修」と回答。
次いで、「コンプライアンス関連書籍(冊子)などの配布」「eラーニングや動画を使った教育(テストを含む)」がそれぞれ19.8%、18.1%を占め、メディアを活用した学習に力を入れる企業も多いことがわかります。
その他の自由回答では、「グループディスカッション」「月次勉強会」「面談形式での業務に関するコンプライアンスの質問を実施」など、コミュニケーションに重点を置いたものや、「コンプライアンスハンドブックの作成・配布」と本格的な取り組みを挙げる企業もありました。

Q4 近年、貴社の新入社員のコンプライアンスの知識・意識について、全体的にどう思いますか? 以下の各項目について「ある方だ」または「ない方だ」のいずれかでご回答ください。

新入社員の知識・意識の傾向は、9割近くが「遵法意識はある方だ」と回答。一方、SDGsへの貢献には消極的

Q4では、新入社員のコンプライアンスの知識・意識の傾向を複数の項目でたずねました。「遵法意識」については9割近い88.2%の担当者が「ある方だ」と回答。次いで、「社会人に相応しいマナーやモラルについての知識・教養」を「ある方だ」とした担当者も73.7%と多く、日本人は健全で礼儀正しいという海外での評判を裏付ける結果といえるでしょう。
SDGsについては、知識が「ある方だ」は57.9%と少なく、「SDGsの達成に貢献しようとする意識」は43.0%と50%を割り込みました。街中やメディアの報道で、SDGsについて見聞きしているとは思いますが、知識としては浅く、日常や自社のビジネスを通じてどう貢献していくかまで想像できていない人が多いのかもしれません。
一方で、「コンプライアンス全般の知識」を始め、「学生時代に教育を受けることが多いテーマ(情報管理、SNSの適正な利用)についての知識」(情報管理系の教養)、「多様性の尊重と相反する差別的な言動に関する正しい知識」(多様性についての見識)、「企業活動は利益追求だけでなく『誠実さ』『社会貢献』も求められているという知識」(CSR意識)については、いずれも「ある方だ」が3分の2を超えており、現代の企業人として必要な常識の下地はおおむね備わっているようです。

Q5 新入社員のコンプライアンス教育に関する悩みはありますか? 以下の各項目について、「はい」または「いいえ」でご回答ください。

7割前後が、教育後のフォローアップや成果の確認が悩み。一方で新入社員の学ぶ姿勢への視線は温かい

Q5では、新入社員のコンプライアンス教育を進める中で悩んでいることを聞いてみました。もっとも多い悩みは、「教育後のフォローアップ(知識、意識の維持)が上手くできない」(75.0%)、次いで多いのが「教育内容を理解し、納得しているかどうかを確認ができない」(67.1%)でした。いずれも担当者が教育後も新入社員たちの成長ぶりを心配していることがわかります。4番目に多かった「新入社員教育と現場(配属先)の指導との連携(食い違い)に不安がある」(58.3%)も教育後の悩みです。
新入社員たちの学習態度については「積極的に学ぶ姿勢が乏しく、興味がないと学習がいい加減になる」に対して「いいえ」が51.3%で、むしろ担当者の温かい目線が感じられる結果となりました。教育後の成長を気にする理由がわかるような気がします。

Q6 新入社員が起こした違反事例や驚いたエピソードがあれば、差し支えない範囲でご回答ください。(自由回答)

最後にQ6で新入社員に関して見聞した違反事例などのエピソードについてたずねました。自由回答ながら1割強のエピソードが集まり、温かい目で見守りつつも、新入社員たちと接しての本音やグチ、驚きも感じられました。
SNS関連では数件報告されています。「社内情報を無断でSNSにアップロード」「著名人の子息が参加した新入社員研修の最中、研修場所が特定できるSNSへの投稿があった」「スマホの知識は持っているが、違反に対する感度が低く、何でもかんでもSNSにアップ」。SNSに限らず、ネット利用のマナーには不安があります。「貸与PCのポケットWi-Fiを使いすぎないように伝えていたが、趣味のネット映像視聴で相当なデータ量を消費していた」

「同期入社の女性に対するセクハラ発言」など、ハラスメントをしてしまった事例もいくつかあるものの、多いのは逆に「指導や注意もハラスメントととらえる」「入社早々、同期社員と恋愛関係となった女性社員が、社内での私的会話が目に余ることを先輩社員から注意され、パワハラを受けたと通報窓口に訴えた」など、過度にハラスメントを訴えるケース。適切な判断基準を教えるのは手間と時間がかかりそうです。

まだ社会人としては未熟な人も多いので、教育係には相当な覚悟が必要そうです。「上司からの指示は絶対正しいと思い込まされている新入社員がいる」「日々、販売はできないが自分が使う分には問題のない不良品が発生します。その不良品を自分の車に積んでいる新入社員を見かけました。持っていっていいと先輩に言われたとのこと」

思ってもみなかった理由で退職してしまう人もいます。「入社初日、ジーンズで出社した社員に注意したところ、そんな服務規程は聞いていないと退職してしまった」
ほかにも、「研修中、居眠り」「挨拶やはっきりした返事ができない」「会社や客先から貸与されたPCやその他の機器を破損」「研修遠征先のホテルで高卒社員であることから禁煙ルームにしていたが、たばこの吸い殻をペットボトルに入れてバスユニットに隠していた。ホテル側が見つけてお咎めがあった。新人研修では何が起こるかわからない」「指示されたことがうまくできないのを伝え方が悪いせいにする。与えられた業務以外には見向きもしない。自ら発信する積極的、創造的な人材が減ってきた印象です」等々、教育担当の苦労は絶えませんが、それでも「そういう人材をやる気にさせる教育が目下の課題です」と覚悟を決めている担当者がいる限り、新入社員たちの成長に期待したいところです。

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