【事例あり】横領・着服とは? 

この記事の監修:古林弘行 弁護士(古林法律事務所)

「横領・着服」という言葉を耳にしたことがあっても、実際にどのような行為が該当するのかを正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。横領とは、自己の占有する他人の物を不法に領得する行為を指し、着服とは、他人の物を不正な手段で自分の物にすることを指します。特に業務上で扱う金銭や物品を不正に取得するケースを指すことがあり、業務上横領罪として処罰されることもあります。

横領・着服は日常生活のさまざまな場面で発生し得る問題です。例えば、会社の経費を私的に流用する、PTA会計の資金を個人的に使用する、遺失物を届けずに自分のものにするなど、身近なケースが多数存在します。また、企業では水増し請求や不正会計などの形で横領・着服が行われることもあります。このような行為は刑事事件に発展する可能性が高く、厳しい処罰を受けることになります。

横領と着服の違いとは?

横領と着服は、ほぼ同じ意味で使われることがあり、どちらも他人の財物を無断で自分のものにする行為を指します。ただし、横領は法律上の用語ですが、着服は一般的に使用される用語で、着服行為が法律上の要件に該当すれば横領罪や業務上横領罪として処罰されます。例えば、レジの釣銭をこっそり自分のものにする行為は「釣銭着服」と呼ばれ、典型的な着服のケースです。

どのような場合に横領罪が成立するのか?

横領罪が成立するためには、いくつかの要件が必要で、代表的なものとして次のようなものがあります。まず、「自己の占有する他人の物」を「委託信任関係」に背いて「横領」することが必要です。また、不法領得の意思(権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思)が必要とされます。

特に、業務上の委託に基づき占有している物を横領した場合、業務上横領罪として、単純横領罪よりも重い刑罰が科せられます。例えば、企業の経理担当者が交通費を不正に計上し、会社の資金を個人的に使うケースや、弁護士が依頼者の預かり金を不正流用する行為も業務上横領に当たります。
一方、落とし物を届け出ず自分のものにすれば、委託信任関係はありませんが、遺失物等横領罪として処罰対象となります。

【事例】それって横領・着服かも!?

会社の経費を私的流用

経理担当の会社員が出張の際、本来の交通費より高額な領収書を提出し、差額を自分のものにしていた。このような行為は「水増し請求」とされ、不正経理の一種として(業務上)横領罪が成立する可能性があります。なお、一般の会社員が「水増し請求」をした場合は、詐欺罪に問われる可能性があります。例えば、出張の精算で嘘の報告をして多額の費用を受け取った場合は、会社をだまして金銭を得たことになるため、詐欺罪に問われる可能性があります。

PTA会計の資金の私的利用

PTAの会計担当者が、保護者から集めた会費を管理する立場にありながら、個人的な買い物の支払いに使用した。後で補填するつもりだったものの、結局補填せずに発覚したケースです。これは「PTA会計の横領」として問題になる典型的な事例です。

釣銭をこっそり着服

コンビニの店員が、客に渡すはずの釣銭の一部をこっそりポケットに入れていた。この行為は「釣銭着服」と呼ばれ、業務上の信頼を裏切る行為として厳しく処罰される可能性があります。

トケマッチ事件とは?

トケマッチ事件では、一部の関係者が顧客の腕時計を無断で売却し、不正に金銭を着服した疑いが持たれています。この事件は、デジタル取引における監査やチェック体制の重要性を示すものであり、企業が適切な管理を行わなければ横領が発生しやすくなることを警告しています。特にオンライン決済やオンライン金融取引が普及する現代では、不正を未然に防ぐための仕組みが必要です。

横領・着服を防ぐためには?

横領や着服は、不正会計やチェック体制の不備が原因で発生することが多いです。企業や組織では、内部監査を強化し、不正を未然に防ぐ仕組みを整えることが重要です。横領が発覚すると懲戒処分の対象ともなるため、公的機関などでは特に厳格な管理が求められます。また、過去のプレサンス冤罪事件のように、不正を疑われるケースもあり、適正な調査が必要となる場合もあります。

万が一、不正行為に気づいた場合は、会社の内部通報窓口や弁護士に相談することが重要です。不正を知りながら放置すると、事態が悪化する可能性があります。トケマッチ事件のような多額の横領や着服のリスクを回避するためには、透明性の高い会計管理と適切なチェック体制を整えることが求められます。