酔っていればヨイヨイ?「ワルヨイヨイ」

「昨日、何があったのか説明して」
 応接室で上司が、俺に険しい表情を向ける。その視線の鋭さに、寒い冬にもかかわらず、額にじっとりと汗が滲む。
 昨夜のことを思い返そうとすると、頭がズキズキと痛む。断片的だが、走馬灯のように思い出される記憶を、つなぎ合わせていく。昨夜は、大型プロジェクトの打ち上げがあった。

気持ちの良い夜

「お疲れさま!」
 打ち上げは、プロジェクトに関わった協力会社も含めた大人数で盛大に行われた。長期間にわたり、このプロジェクトのリーダーを務めた俺は、自分が誇らしかったし、その場の主役であったように思う。皆が、俺をねぎらうようにお酒をどんどん注いでくれる。リーダーとしての俺の活躍を口々に称えてくれ、そんな褒め言葉を肴に酒を飲む。こんなに気持ちの良いことは、なかなかあるものではない。俺は上機嫌で酒を飲み続けた。

リズムに乗って

 打ち上げが終わり、店から出る。冷たい外気にさらされているのに、気持ちと身体は変わらずアツいままだった。それぞれが帰路につき、さっきまであんなににぎやかだったのが、気づくと1人きりになっていた。とりあえず駅の近くまで来てみたが、まだ飲み足りないと、コンビニで缶ビールを買い、その辺にあったベンチに座る。それにしても今日は最高だなあと、余韻に浸っていると、どこからともなく語りかける声が聞こえてきた。
 ヨイヨイ。ヨイヨイ。
 リズミカルで明るいその声に驚き、おぼつかない足元で立ち上がる。酔いで回る景色の中、声の主を探すが、見つからない。ヨイヨイ。ヨイヨイ。声に反応して、今度は身体が勝手に動き始める。ふらふらと歩いていると、膝に居酒屋の看板が当たり、痛みで顔をしかめる。こんなに気分がいい俺に、ぶつかってきやがって。看板を睨みつけると、ヨイヨイ、という声が煽るように頭に響く。声につられるように、思い切り看板を蹴り飛ばすと、すかっとした。看板は、がしゃん、と大きな音を立てて倒れた。ヨイヨイ!
 声がまた聞こえる。まるで、俺の行為を認めてくれたうで、気分が良かった。それからも、俺は声に操られ続けた。
 あの女の人、かわいいな。声をかけようかな。
 ヨイヨイ、ヨイヨイ!
 大声で叫んだら気持ちよさそうだ。
 ヨイヨイ、ヨイヨイ!
 どのくらい時間が経ったのか、気づくと終電の時間を過ぎていたので、とりあえず会社のあるビルに戻ってきた。しかし、もちろん入り口のドアは閉まっている。もう眠いし、ここで寝てしまおうか。
 ヨイヨイ!と聞こえた声を合図にするように、そこで俺は意識をなくした。

覚めて、醒めた

 朝、ビルの入り口前で寝ていた俺は、警備員に起こされた。社名と名前を聞かれ、ぼんやりとした頭で答えると、すぐに会社に報告された。前日の服装のまま出社すると、総務部に呼び出される。看板を蹴った店をはじめとして、いくつかの防犯カメラに俺の醜態が映っていたことから、警察へ通報されたらしい。
 どうやら大ごとになっている…と気づいた頃、酔いはようやく醒めた。

酔いの所為?

「何かに、操られていたんです! お酒のせいで、判断力も低下して…」
 俺は、必死で弁解した。しかし、上司は冷静に、俺の目を見つめながら説明する。
「お酒を飲んで酔ったのも、迷惑行為に及んだのも、あなた自身なのよ」
 上司のまっすぐな視線に耐えられなくて、思わず下を向いた。
「酔いの所為にできるわけないでしょ!」
 「酔い」という言葉から連想して、あの夜に聞こえた「ヨイヨイ」がまた頭に浮かんできた。
 皆に褒められて、嬉しくて楽しくて仕方なかったはずなのに、悪い意味で忘れられない夜になってしまうなんて。お酒の所為にしようと言い訳を重ねつつも、酔いが醒めた今、自分でわかっていた。あれもこれも、ヨイわけがなかったのだと
(証言者 広告制作会社 ウェブデザイナーA)



※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。