飛び交い、響き渡れ! 報連相「ホウレンチョウ」

「どうして報告しなかったの?」
 オフィスに、ピリピリとした空気が漂っていた。新入社員の五反田が、お客様から「納品物に誤りがある」というクレームを受けたが、それを上司に報告していなかったのだ。さらに対応のまずさから、お客様を怒らせてしまった。五反田に話を聞くと、直属の上司である四ツ谷や課長の私がいつも忙しそうで、報告を躊躇したという。

報連相不足

 さらに聞き取りを進めていくと、驚くべき事実がわかった。納品物の誤りの原因は、お客様から注文内容変更の連絡を受けていた四ツ谷が、多忙で五反田への情報共有を怠っていたことだった。呆れたが、起きてしまったものは仕方ない。私は、五反田と四ツ谷を呼び出した。
「二人が、ちゃんと報告・連絡・相談をしていれば、防げたミスやクレームだよ。ミスが起きても適切に対処ができていれば、お客様を怒らせることはなかったかもしれない。報連相は仕事の基本だよ」
 私の話を、五反田と四ツ谷は真剣に頷きながら聞いてくれた。私自身も話しながら、もっと報連相を促すべきだったと反省した。報連相の大切さを、あらためて課内全体に伝えていこう。そんな決意をした次の日、それはあらわれた。

舞い降りた

「な、なにあれ。なんか飛んでるけど?」
 出勤すると、オフィスがざわついていた。ほうれん草のような緑の翼、からだを包む羽毛もカラフルな不思議な見た目の鳥が、天井付近を飛び回っている。ひらひらと、たまに羽根を落としながら。その様子に呆気にとられていたが、やがて鳥の習性が見えてきた。
 見積書を見ながら考え込んでいる社員のもとに飛んでいき、肩に止まったかと思うと、「相談!」とかわいく鳴く。今度は、外出から帰ってきたばかりの五反田の頭上を飛び回り、「報告!」と鳴く。さらに、部長と来年度の営業目標について話し終えた私のデスクに舞い降りて、「連絡!」と鳴いた。
 突然の鳴き声で私が戸惑っていると、じれったそうに翼をバタバタさせながら、また「連絡!」と鳴いた。
「わかったわかった、すぐに連絡するから!」
 思わず返事をすると、その鳥はからだを震わせ、喜んでいるように見えた。来年度の営業目標が、職場の皆に早々に情報共有すべき内容だったことを、この鳥はなぜか知っていたのだ。

癒やしの存在

 インターネットで検索すると、その鳥が「ホウレンチョウ」という名前で、職場に報連相を浸透させるこんぷらモンスターであることがわかった。良いこんぷらモンスターがいることは知っていたが、こんなにかわいらしい姿のものもいたことに驚いた。ホウレンチョウがあらわれてからというものの、五反田は積極的に報告するようになったし、四ツ谷は忙しいときでも周囲に意見を求めるようになった。また、職場の皆が、内容の良し悪しを問わずに迅速な報連相を、課長である私にしてくれるようになった。職場のコミュニケーションが円滑になり、一体感が生まれた。ミスやクレームが減っただけでなく、職場全体の雰囲気が明るくなった気がした。

また別の職場へ

「最近、ホウレンチョウ見ませんね」
 初めてホウレンチョウの姿を見てから数か月が経った頃、ふと五反田が呟いた言葉に、「そういえば」「たしかに」と皆が口々に話し出した。実は私も少し前から、ホウレンチョウの姿が見えなくなっていたことに気づいていた。どうやらホウレンチョウは、報連相が必要な職場にあらわれる存在らしい。それが姿を消したということは、私たちの職場では十分に報連相が浸透したからなのだろう。かわいらしい姿が見られないのはさみしいが、そう考えると悪い気はしなかった。
「ありがとう、ホウレンチョウ」
 なんとなく独り言のようにお礼を言ってみると、周りの皆も同じように続いた。ホウレンチョウは、今日もまた別の職場を救っているはずだ。
(証言者 証言者 部品メーカー 営業課長A)



※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。