『正義と微笑』 太宰治 著(1942年刊行)

「役者を志した16歳の少年・進(すすむ)の日々の葛藤を書いた青春小説です。次の文章は、主人公の進さんが『鴎(かもめ)座』という劇団の面接試験を受けるシーンの引用です。進さんを待ち構えていた試験官は、著名な劇作家や役者たち。しかし…

 入口でもじもじしていたら、横沢氏は大きい声で、
「こっちへ来いよ。」と下品な口調で言って、「こんどは多少、優秀かな?」
 他の試験官たちは、にやりと笑った。
(中略)
「筆記試験は無いのですか?」
 へんに拍子抜けがして、僕は尋ねた。
「生意気言うな!」末席の小柄の俳優、伊勢良一らしい人が、矢庭に怒鳴った。
「君は僕たちを軽蔑しに来たのか?」

 受験者を見下した態度。真面目な質問をしたらキレられる。また、他のシーンからわかるのですが、試験官たちはタバコを吸いながら面接を行っています。もし現代でこんな面接があったら、「【拡散希望】鴎座はブラック劇団!タバコ吸いながら圧迫面接」とSNSで一気に話題になってしまうことでしょう。
 当然ながら、進さんは鴎座に入る気をすっかりなくしてしまいました。今も昔も、パワハラのある職場に人が寄り付かないのは同じですね。