『老婆と医者』

あらすじ
 目を患った老婆が、医者を家に呼びました。医者は、老婆の目に薬を塗り、老婆が目をつぶっているのをいいことに、家具をこっそり盗み出す行為を繰り返していました。すっかり盗み終わった頃、治療も終わり、老婆の目は快復しました。しかし老婆は約束の報酬を支払おうとしません。老婆は理由を聞かれ、「私の目は悪くなったに違いない。以前は見えた家具が、今は何も見えないのだから」と答えるのでした。

 医者は、「目をつぶっている間なら、家具を盗んでもバレないだろう」と考えて悪さをしたのでしょう。しかし、医者の思い通りにはいきませんでした。この後、すぐに医者の悪行が発覚するはずです。

 そもそも、「いや、そんなに家具を盗んだら、バレるでしょ!」と感じますが、老婆が気付かないのをいいことに、医者の行為はエスカレートしていったのではないでしょうか。
 このようなことは、企業内でも起こり得ます。たとえば、最初は備品のペンを一本持ち帰って、それが気付かれなかったから、と次はさらに大量、または高額な備品を持ち帰るようになる…といったケースです。しかし、やはりこの物語と同様に、思い通りにはいかないはずです。老婆ひとりでも気付いたように、企業内ではさらに多くの人の目があり、不正に対して目をつぶってくれることはありません。

参考:イソップ寓話集(岩波文庫)