『こころ』 夏目漱石 著(1914年刊行)

 夏目漱石の代表作であり、教科書で読んだことのある人も多いかもしれません。
 そんな『こころ』には、次のような文章があります。

平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです。

 これは登場人物の一人である「先生」の言葉です。
「先生」には、過去に信頼していた叔父からお金を騙し取られたこと、また自身も恋のために親友を裏切り、傷付けたことがありました。そんな「先生」だからこそ、人は様々な理由で、悪人に変わってしまうことを、語ったのかもしれません。これは、企業で起きる不正にも共通する考えです。それまで真面目に働いていた人が、「お金に困って」「プレッシャーに耐えられず」等、誰にでも起き得るような理由で、不正を行ってしまうことがあります。

 不正を行いそうになったとき、踏み止まるために必要なのは、想像力です。不正を行った結果、周囲や自身にどのような影響があるかを想像するのです。
 物語では、「先生」は親友を裏切ったことを後悔し続けました。誘惑や欲望に負けて「悪人」になれば、一時は良い思いをするかもしれません。しかしその後、行いをいくら悔やんでも悔やみきれない程、苦しむこともあるのです。

参考:『こころ』(青空文庫)