散らかったデスクに、潜むのは…「チラカシャ」

 整理整頓は苦手というより、嫌いだ。どこかのユーチューバーが、『整理整頓ができる人は仕事もできる!』とかいう動画をアップしていたが、仕事のできる・できないをそんなことで決められてたまるか、と思う。 私のデスクには書類や本、飲み物、おやつ等が手の届く範囲に広げてある。なぜかって、仕事がしやすいからだ。それを見て上司は、呆れ顔で「片付けろよ」と話しかけてきたが、最近では諦めたのか、注意されることはなくなった。そして、私のデスク周りは、さらに様々な物であふれていく…。

かわいい侵入者

 ある日、残業中に、足元を何かが通り過ぎる気配がして、下を向いた。暗がりに見えたのは、こちらを見上げる緑色の小さな生き物だった。一瞬驚いたが、よく見れば目はくりんとして、ハリネズミのような愛くるしい姿をしている。
「どこから入ってきたんだい?」
 後で食べようと思っていたスナック菓子の袋を開け、小ぶりなものを一つ渡すと、嬉しそうに両手で持ち、食べ始めた。そしてお礼を言うように、私の足元をくるくる回る。その愛らしさに、思わず笑みが漏れた。

資料はどこへ消えた?

 その生き物は、それからも姿を見せた。あのスナック菓子をもらったことで懐いたのか、ある日気付けば、私のデスクの書類の山の上に我が物顔で腰掛けていた。さらに別の日には二匹、そしてまたほかの日には三匹と、数も増えていった。ちょこまか動き回るその姿はやはり愛らしく、見かける度にスナック菓子をあげた。しかし、かわいい…だけではなかったのである。
「あれ? どこいった?」
 お客さんから預かった大事な資料が見当たらない。ついさっきまでここにあったはずだ。不思議に思いながら探していると、壁側に設置されているシュレッダーの辺りで音がして、視線を向ける。
「あっ!」
 なんとあの生き物が、シュレッダーのスイッチを鼻で押している。そして、もう一匹が、笑顔で紙をシュレッダーに入れている…その紙は、探していた資料だ。唖然として止めることすらできないでいると、今度はかなり近くで、ガサガサと音がする。私のデスクの上からだ。そこには、目を疑う光景があった。書類の山で片足立ちしてバランスをとるもの、今まさに別の機密書類をゴミ箱に捨てようとしているもの、蓋の開いたペットボトルを蹴って中身をこぼすもの…数えきれないほどの、あの生き物がデスクを埋め尽くすように、うようよと動いていた。
「うわあ!」
 思わず声を出した私を見て、それらは悪戯っぽく一斉に笑った。愛らしさよりも恐怖が大きく勝り、思わず後ずさりをした、その時。
「どうしたの、大声出して」
 声を出したことで自然と、私のデスクにも注目が集まる。そして、事態に気付いた同僚等、大勢の悲鳴がオフィスに響き渡った…。

二つの変化

 そのあとは、もはや業務どころじゃなく、私は周囲に責め立てられながら、あの生き物を追い払い、デスク周りの大掃除を行った。関係者に謝罪、機密書類等の紛失による反省文の作成…。大変な目に遭いつつ、ようやく片付くと、あの生き物たちは現れなくなった。どうやら、あれは「チラカシャ」という名前で、散らかったオフィスを好み、現れるらしい。発生源は、どう考えても私のデスクだった。
 それ以来、私には二つほど大きな変化があった。一つは、相変わらず片付けるのは苦手だが、ゴミの放置をしない、クリアデスクを意識するなど、気を付けるようになったこと。もう一つは…小動物が苦手になったことである。
(証言者 銀行系コンサルティング会社 会員サポート部A)



※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。