「一杯だけなら……」と飲んだ酒で道を踏み外しかける

営業職をしているアナタ、毎日営業車に乗って取引先を回ります。運転する機会が多いからこそ交通ルールは厳守、どんなに道が空いていても法定速度は守ります。別のことをしながらの“ながら運転”なんてもってのほか、気をそらないように運転中はラジオや音楽も聞きません。取引先の社長からの急ぎの電話が鳴ったとしても、車を路肩に止めてから対応します。飲酒運転!?そんなことは言語道断、お酒を飲んだ状態でハンドルを握る人がいるなんて信じられません。

ある休日、アナタは大学時代の先生に呼び出されました。若い時分道を外しそうになったアナタを救ってくれた恩師です。お世話になった先生から「最近の若い学生の気持ちがわからないんだよね。相談に乗ってくれないかな」とLINEが届けば、久々の休日でも駆けつける、これこそ先生から教わった義理ってものです。アナタは営業車ばっかり乗っていないでコッチもな、と愛車のキーを回し、先生の自宅に向かいました。

LINEでのやりとりはあったものの、先生との対面は久々です。「おぉ!よく来たな」と迎え入れてくれましたが、どこか元気がない感じ。初めて見る落ち込んだ姿にアナタは驚きます。リビングに迎え入れられたアナタは先生に「その教え方は絶対に間違っていないです!」「僕がこうやって仕事をできているのも先生のおかげです!」と熱く語りかけます。30分ほどエールを送っていると、先生の顔色もだんだんと良くなってきました。性根はとことん明るい性格、一時間も経てば「オレも若い学生に負けんぞ!」とエンジン全開。そして、先生はちょっといいものを持ってきてやるとリビングを出ていきました。「すまん!待たせた。ちょっと奥にあってな」と先生が戻ってきました、右手には地酒の大瓶がしっかりと握られています。お前もやるだろ!と2つのグラスも用意されています。

「今日は車なんで……」と断るアナタ、飲酒運転なんて怖くて出来ません。しかし先生は「俺がさ、久々に酒を飲む気分になったんだから、一杯くらいいいだろう」と猛烈に勧めてきます。「いや車なんで」、「一杯くらい」、「飲酒運転になっちゃいますよ」、「いいからとりあえず」…と、アナタと先生の押し問答。結局、折れたのはアナタ。遂にグイグイっとやってしまいました。

帰り際、それではまた、と車に乗り込もうとするアナタの腕を、先生が勢いよく掴みました。「おい、酒を飲んでるのに運転するつもりか!?」突然の怒声。振り返ると、アナタに酒をついだ陽気な先生はもうそこにはいません。眼前に立つのは、アナタに厳しい指導をした昔の先生です。まずアナタは呆気にとられ、次に学生時代に先生からいただいた数々のお説教を思い出しました。あの時の恐怖がフラッシュバック、アナタは何も言うことができません。その後、酒臭い先生から飲酒運転の危険性について小一時間ほど説かれ、最終的には車を先生の家に置き、タクシーを呼ぶこととなりました。「車で来てると何度も言ったのに……、断ったにも関わらず飲めと言ったのは先生なのに……」、ともやもやした感情だけが募ります。しかし、飲酒運転を絶対にしてはいけないことは事実です。納得はできませんが、再度、道を外しそうになったアナタを先生が救ってくれた。こう考えると、先生はやっぱりアナタの恩師なのかもしれません。

教 訓

先生のおかげであり先生の所為で、「飲酒運転は絶対ダメ」であることが身に沁みたのではないでしょうか。「飲んだら乗らない、乗るなら飲まない」を徹底しましょう。