『盗みをする子と母親』

あらすじ
 ある日、こどもが学校で友達の書板(本やノートのこと)を盗み、母親に見せると、母親はこどもを褒めました。次に、こどもが着物を盗んで渡すと、母親はさらに感心しました。こどもが成長して若者になり、より大きな盗みを行ったところ捕まって、死刑を執行されることになりました。処刑場に連れていかれるとき、息子は内緒話をするふりをして母の耳を思い切り噛み切ると、「初めて盗みをしたとき、叱ってくれていたら、死刑にはならなかっただろう」と言い放つのでした。

 母親に叱られなかったことを理由に、盗みを繰り返した息子。これは、社内で不正行為が見過ごされ、繰り返される構図と似ています。
 たとえば、企業で売上やノルマなどが重視され、それを達成するための不正が見過ごされていることがあります。この場合、不祥事が発覚して罰則や処分を受けたとき初めて、従業員は事の重大さに気づくかもしれません。習慣化した行為は、当人たちにとっては「常識」だからです。
 この物語の母親と息子のように、企業内に見過ごされているから、と不正を繰り返す人、不正と知りながら不正を見過ごす人がいれば、企業や本人たちに悪い結末が訪れるでしょう。母親のように耳を嚙み切られないためには、不正行為やルール違反には決して耳を塞がず、指摘することが大切なのです。

参考:イソップ寓話集(岩波文庫)