『トロッコ』 芥川龍之介 著(1922年刊行)

 8歳の少年・良平は、鉄道工事に使われている土を乗せて進むトロッコに憧れていました。ある日、現場の作業員たちに声をかけ、トロッコを一緒に押させてもらいます。最初は大はしゃぎしていた良平ですが、どんどん先に進み、日も暮れてきて、「いつ引き返すのかな?」とだんだん不安になってきます。そして時間を全く気にしていない様子の作業員は、いきなり良平にこう言い放ちます。

「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから
「あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら」
 良平は一瞬間呆気にとられた。もうかれこれ暗くなる事、去年の暮母と岩村まで来たが、今日の途はその三四倍ある事、それを今からたった一人、歩いて帰らなければならない事、――そう云う事が一時にわかったのである。良平は殆ど泣きそうになった。

 泣きそうになりながらも、良平はお礼を言い、平静を装って家路を辿りました。しかしいざ家に着くころには感情が爆発し、大泣きしてしまいます。本作は、子どもの繊細な心情や成長を描いた物語ですが、作業員たちと良平の認識のずれに着目してみると、自分に都合の良い思い込みは危険という視点で読むこともできるでしょう。特に仕事では、都度の確認や認識のすり合わせといった、丁寧なコミュニケーションが大事になります。特に予算や方向性など、重要なことは早めに話し合い、はっきりさせておくようにしましょう。話が進んでからひっくり返るようなことがあっては、良平のように泣きたくなるかもしれません…。